――――――気付けば、一面真っ赤な場所にいた。
両手を広げて、その手を見詰める。視線を下げて、自分の体を見詰める。
そうして最後に、辺りを見回した。
どういうわけか、後ろには行けない。
前は、透明な壁だ。叩いても何をしてもびくともしない。
ただ、横には移動できた。
どうやら俺は、平面になってしまったらしい。
移動できる範囲で移動すると、ようやくここがどこか理解できた。
見慣れた紅いナイトメア……紅蓮弐式の、外装だ。
ここは恐らくナイトメアの開発施設なのだろう。
そして、今見ているこの世界はきっと……、俺が創った、新しい世界。
あの頃、何度も俺を守ってくれた紅蓮弐式は、少しカスタマイズされている。
右腕のドリルは掘削機だろうか。新しい世界に役立つナイトメアとして生まれ変わろうとしているんだな。
下ではラクシャータと、コーネリア姉上がこちらを見ながら話していた。
俺の姿ははっきりと映っているはずなのに、二人には全く見えていないようだ。
幽霊というのは、こういうものなのだろうか?
反対側へ動けば、そこにはカレンがいた。
アッシュフォードの制服を着て、難しい顔をして何かを読んでいる。
相変わらず紅蓮の起動キーは手放せないようだが、学校、ちゃんと行ってるんだな。
俺との約束、覚えていてくれたのか。……ありがとう、カレン。
ふわりと体が浮いた。
そうしてまた、気付けば一面真っ白な場所にいた。
ここは、よく見慣れた場所だ。
見上げればそこには『28日〆切り!!』と大きく雑な字で書かれている。
今俺は、生徒会室のホワイトボードにいるようだ。
目の前には、沢山の資料に埋もれながらパソコンの画面を見て唸っているリヴァルがいた。
背伸びをしながら目を凝らして見てみると、それはどれも生徒会長の承認が必要なものばかりのようだ。
あの頃は沢山人がいたし、俺も時間が許す限りは書類をまとめて、なるべく会長はサインだけすればいいようにしていたからな。
大変だろうが、新しい仲間と一緒に頑張れよ。
……何も言ってやれなくて、すまなかった。
また、ふわりと体が浮く。
今度は、恐らく……フローリングか?
ここは、昔俺が設立したブリタニアの研究施設だ。
ニーナと、ロイドと、セシル。それに、おかしな格好をしたジノがいる。
ロイドは怪しげな色をした菓子を、しきりにジノに押し付けたがっていた。
そんな二人を気にかけることもなく、ニーナはPCでミレイと楽しそうに喋っている。
……俺の元でフレイヤ・エリミネーターを開発している時はずっと厳しい顔をしていたけど、ちゃんと笑えるようになったんだな。
これも、ミレイのお陰だろうか。
あの人はいつだって、人を笑顔にする力がある。
ずっと、そのままのミレイでいてくれ。
また、体が浮く。
今度は……陶器の置物の表面にいるのだろうか。
一度だけ見たことがある。恐らく中華連邦の朱禁城だ。
神楽耶が身振り手振りしながら天子に語りかけ、天子はしきりに頷いていた。
中華連邦との外交は、神楽耶がうまくやっているようだな。
神楽耶はいつでも先を見据え、自分が正しいと思う道を突き進む。
俺やあいつより、余程芯が強い女性だ。
きっと、日本をいい方向へ導いてくれるだろう。
そうしてまた、体が浮いた。
ここは、見たことがない場所だ。
視界が揺れる。これは人が持てる何かで、誰かに運ばれている?
辺りは一面の木々が生えていて、そこにはたわわにオレンジ色の実がなっていた。
声もなく差し出されたそこには、ジェレミアがいる。
快活な声で礼を言ったジェレミアは、今まで見たこともないような格好をしていた。
まるで、農作業でもしているかのような井出達だ。
……今まで抱えられていたからわからなかったが、差し出したのはアーニャだった。
どうやらこれは、ステンレス製の水筒だったようだ。
まさかここは、オレンジ農園なのか?
アーニャと一緒に、あのジェレミアがオレンジ農園を経営しているのだろうか。
ふ、ふふっ、はははは、あはははははは!
俺に仕えるようになってからは『その名はもはや忠義の名』なんて言っていたけれど、本気だったんだな。
………ありがとう、ジェレミア・ゴッドバルト。お前の忠節に感謝する。
また、体が浮いた。
ここは……小さな水溜り、だろうか。
目の前は青空だ。少し視線を下げれば、そこは木々に囲まれていた。
よく目をこらして見てみると、そこは俺が作った、ロロの墓だった。
もうかなりの時間が立っているのに、墓に供えたペンダントは今も変わらずそこにある。
最期までルルーシュ・ランペルージの弟として死んでいったロロを思い出すと、もう止まっている筈の心臓がぎゅっと痛んだ。
……けれどそこに、一匹の子リスがちょろりと顔を出す。
その子リスが出て来た方へと視線で追えば、そこには何匹かのリスが巣を作っていた。
―――ああ。これでもう、寂しくないな、ロロ。
また、知らない場所に来た。
ここは……教会か?俺がいる場所は、ステンドグラスのようだ。
……目線を下げれば、そこには見慣れた拘束服を身に纏ったC.C.が、こちらに向けて祈りを捧げていた。
C.C.には、最期まで世話になりっぱなしだったな。
お前はずっと俺を支えてくれていたのに、結局お前の本当の望みは叶えてやれなかった。
あの頃、そのことを気にかけていた俺に、『ピザ一生分で手を打とう』、なんて言ってお前は不遜に笑っていたっけ。
―――――ふと、C.C.が顔を上げる。
金色の瞳と、目が合った。
そうして、とても嬉しそうに破顔した。
……俺の存在に、気付いた?
じっと俺を見詰めたままのC.C.の唇が、僅かに動く。
『行け』
俺の体は、また浮いた。
そうだ、俺は。俺は、行きたい。
そして会いたい。
―――――ナナリー!スザク!!
気付けば視界は真っ青になった。
ここは、見覚えがない。けれど、どこかのバルコニーのようだ。
俺がいるのは、きっと窓ガラスの中だろう。
そうして目の前には、俺の求めた二人の姿があった
目が見えるようになったナナリーが、じっと青空を見詰めている。
車椅子の傍に立っているスザクの顔は、仮面のせいで見えない。
ナナリーは、笑っていた。
空の青を愛でるように。
この美しい世界を愛でるように。
―――――ああ、俺は、俺はずっと、ナナリーのこんな顔が見たかったんだ。
ふと、ゼロの姿をしたスザクがこちらを向いた。
まるで俺の存在に気付いたかのように、ゼロの仮面はじっとこちらを見詰め続けている。
そうして何を思ったか、空を見ていたナナリーの車椅子をこちらに向けた。
ナナリーの紫色の瞳と、目が合う。
とても、驚いた顔をしていた。
けれどすぐに、泣きそうな顔で笑った。
まさか、俺が見えているのか?
ナナリーがこちらへ手を差し伸ばしてくる。
ああ、駄目なんだナナリー。
俺はここから出られない。出ちゃいけないんだ。
首を一度、横に振る。
するとナナリーは、とても悲しそうな顔をした。
やっぱり俺は、お前にそんな顔をさせることしかできないのか。
……と、今までずっとこちらを見詰め続けていただけだったゼロが、不意に仮面をとった。
――――スザク。
そう認識したときには既に、黒い手袋がこちら側へ突っ込んできていた。
まるで水の中にいるかのように、スザクの手を中心に波紋が広がる。
そうして無理やり手をとられ、引っ張られた。
もう片方の手は、ナナリーに握られて。
二人に引き寄せられて、俺は平面の世界から飛び出した。
大好きな二人の奇跡のような笑顔に、今度はそれに吸い込まれそうだと思った。
ぱちり、と瞬きを繰り返し、目を覚ます。
――――――ああ、さっきのは、夢だったのか。
そう、残念に思いながら体を起こした。
知らない間に沢山の白い蓮の花に囲まれている。
俺が寝ていたここは、棺のようだった。
両手を広げて、その手を見詰める。視線を下げて、自分の体を見詰める。
そうして最後に、辺りを見回した。
大好きな二人の、奇跡のような笑顔が、そこにはあった。
「お帰り、ルルーシュ」
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氷菓のOPパロディで書いてみました。
コードギアス本当に大好き。
ゼロレクイエムは今でも思い出すと色んな感情が湧いてきますが、あの終わりがなければこんなに何年もハマってはいなかったのかもと思います。
読んで下さってありがとうございました!